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あなたは美術展を、どのように楽しんでいますか。
私は、あらゆる展示物のなかから、たったひとつのお気に入りを見つけ出すのが好きです。
最もぴんと来る作品をためつすがめつし、記憶に刻み込む。大規模な企画展など、下手をするとけっきょく何を観たのか後になって思い出せなかったりするけれど、その時・その場所にまつわる鮮烈な記憶がひとつでもあれば、確かな収穫をこつこつ蓄積できているような気がするのです。

ところで、古典美術の展覧会を観ていると、ふと奇妙な心持になることがあります。
現代人である私達は、日がな一日まったりとアートを鑑賞しつつ明け暮れる、ということは滅多にない。美術館へ行く前にかかりつけの病院で薬をもらい、鑑賞後にはちょっといい気分を引きずったまま中目黒で北欧家具を物色し、そのまま友人とフレンチディナー。物足りないので締めに独りでラーメンを食べ、半額デーを逃さずに米国TVドラマのDVDをまとめ借りし、コンビニで食料を調達して帰ってくる。

極度に洗練されたものからとことん下世話なものまで、私たちの生活はあらゆる雑多な事象に取り囲まれているけれども、古典美術となるとなんとなくそうした全てから、遠くかけ離れた存在であるような気がする。昔の絵画や彫刻だって、いま、ここに存在している限り、現代の事象であるはずなのに。とっくのとうにこの世にいない人達のものではなく、私達のものであるはずなのに。

過去を知らねば、現在は解らない。モナリザやセザンヌやピカソがあって、村上隆がある。オーディオガイドを聞くといい、研究書を読むといい。至極ごもっともで、私自身もこれまで、なるべくそうした過去の蓄積をふまえて作品を鑑賞しようとしてきました。

でも、過去から切り離されて目の前にある作品を観てはいけないのだろうか。身体の芯に響いてくる大音量の電子音楽や、腕にしっくりなじむ行きつけの喫茶店のカウンターのように、古典美術と正面きってふれあってみたら、どんな楽しみ方ができるだろう。ここではそんなことを、自分なりに考え直してみたいと思っています。

登場するのは、瑠未(るみ)と靖代(やすよ)という架空の姉妹です。
妹の瑠未がある展覧会で選んだこれぞ、という一品について、姉の靖代と茶でもしばきつつ勝手きままな放談をする、という形式になっています。

それぞれの記事の冒頭では、作品画像とともに、簡単なあらましを紹介しています。その作品について、あなたはどう思うのか。二人の対話を読む前に、ちょっと考えてみていただけると面白いかもしれません。

 

登場人物紹介

 

瑠未アイコン淺川 瑠未(あさかわ るみ)

東京都出身。都内のわりと有名なアンティークの洋服・家具・雑貨などを販売するお店に勤務。ひまさえあれば都内の美術館や映画館、古書店や喫茶店に通っている。いい年をして文学少女気質がまったく抜けない、困った社会人。仕事そっちのけですぐ空想の世界に旅立ってしまう。ちかごろ明らかに店長から怒られる回数が減ってきたので、危機感を抱いている。
じゃじゃ馬のような自分の感性に振り回されつつも何とか社会にとけこもうとがんばっているが、つい先日も洗濯機に親しげに話しかける姿を目撃された。

座右の銘は「暑さ寒さも彼岸まで」。

 

靖代アイコン山奈 靖代(やまな やすよ)

佐賀県出身。某大学院にて生物学研究室を統括する准教授。歳の離れた妹をなにくれとなく気にかけ、かわいがっている。美術には門外漢ながら、鋭敏な知性としごくまっとうな良識の持主であり、妹の無責任であいまいな物言いは見逃さないが、ちかごろ老眼の兆しあり。
自他ともに認める酒好きであり、ワインと日本酒には目がない。「無駄なことや理の通らないことは大嫌い」などと言っているが、気まぐれにぶらりと登山に出かけたりアナログな機械式時計が好きだったり、はたから見ると例外はけっこうある。

座右の銘は「生涯愛煙」。

 

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 挿画担当:おとないちあき

 

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