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3古都ものがたり

3 古都ものがたり

Abstract

 

ばかやろう。わたしたちは、一人じゃない。

 

小学生時代のおはなし。
わたしの母の珠子は、双子の姉だった。
妹の晶子おばさんは、長い闘病生活を送っていた。

お見舞に通っているうちに、
ほがらかなようでも深い闇を抱え
さまざまな顔をもつ母よりも、
辛辣だけれど裏表がなく
物静かなおばさんのほうに、
親しみを覚えるようになっていった。

五年生の冬。
なにもない土曜日の午後、
ふと大人になりたくなって、
病院をひとりで訪ねていった。

「珠子ねえさん」をはばからない、楽しいお喋り。
しだいに真剣になってゆく、止まらないおばさんのむかし語り。

なぜだか今日は、話したくてたまらないの。

打ち明けられたのは、
後にわたしの父となる男性をめぐる
奇妙な、そして哀しい三角関係だった…。

純粋なラブコメって、なんだろう?
ひとの数だけ定義はあれど、
たとえばそれは、こういうかたち。
すこしむかしの西京と東京にて展開する、
ガーリッシュゴシックロマンス。

 

Fragments

 

1 ふしぎなお母さん
酷暑の午後、パーラーへ避難。あ〜極楽。珈琲杏仁、ふたつ。かっきり半半、上弦の月。苦みと甘みのハーモニー。こうすると美味しいのよ。ザクザクして、混ぜっ返して、ぐるぐるぐる〜。過激に高速化、母の右腕はトルネード。三分後、鎮静化。さあ、存分に味わうがよい。水墨画のオーロラ。

 

2 きれいな療養施設
まっ黒ボートで、まっ白お山のてっぺんへ。しょうこおばさんのおみまい。長いきれいなガラス、お外は歯ブラシ。まっ白なタイル。まっ白なベッド。まっ白なパジャマ。かみの長いお母さんが、お母さんとぷかぷかおしゃべり。サヨナラ。まっ白なロビー。りんごジュース。晶子、長くないわね。

 

3 せきこむ晶子おばさん
わたしの四年は、とても長かった。おばさんはまだ、白い煙を吐いている。内ぞうがボイラーと化している。そっくりなのに、年上みたい。珠子ねえさん、相変わらず?うん。瑠未ちゃんも大変ね。なれてるから。お腹すいたでしょ、売店で何か買ってきな。ついでに缶コーヒーね。まってました!

 

4 しんけんな好奇心
コーヒー牛乳で乾杯。このあと、用事ある?ううん。ちょっと出ようか。聞いて欲しいの。なにを?わたしたち、変だと思わない。どこが?関係性が。つまり…姉と妹って感じ、しないでしょ。双子だから?じゃなくて。…行きましょう。何故だか今日は、話したくてたまらないの。沈没する吸殻。

 

5 まどろみの始まり
うす暗い水の底。背中合せの昼寝顔。わたし、どっちだ。…ハズレ〜。一緒に呼ばれる時は、たまこしょうこかしょうこたまこ。親も間違えた?全然違う、って。すごいね。線対称。水面にゆらめく黄金建築。失神する妹。走り寄る姉。修学旅行で、いきなり離島から京都でしょ。夢みたいだった。

 

6 ゆめみたいな現実
感情の記憶がないの。とにかくまぶしくって。麗しいものが殺到して、ばかになって。瞬きたくなかった。珠ちゃんは喋りまくってた。バスでも料亭でも、紅葉の舞い落ちるお庭でも。極楽ってほんとにあるんだね、って。写真はある?カメラは高嶺の花よ。先生が撮るだけ。だから、よく観たの。

 

7 どたばたな夜更け
視たくなかった。お定まりの、深夜の怪談まつりよ。八対一で開催決定。円くふとんを敷いて、中央に蝋燭。小指で耳栓してたの。中に来ないように、ぎゅっと海苔巻になって。本物の話の直後、痩せた男が出て、吹き消した。突然の離島の暗闇で、魂にじかに怒鳴られた。二度と来るな。死ぬぞ。

 

8 しんみょうな夜明け
あの世のとば口があんな風ではありませんように。まっくらで、金切り声が飛び交って。意気地がにぎり潰されて、歯の根が合わなくて。いつまでも側にいるようで。レントゲンみたいに、見透かされているようで。失神しちゃったのね。気がついたら、ひっそり。掛布団の隙間から、光がみえた。

 

9 いきなり高校生
みやこは光も闇も凄い、本場の幽霊に遭えた!って強がってた。遠い微笑。市内の高校に入学して、フェリー通学。世間がいっきに広がったな。…で、高二の五月にまた京都。怖かった?少しね。でも、どうせ死ぬなら極楽、よ。王子さまとの出逢いは?自由時間の祇園で。わたしが、先だったの。

 

10 すかした王子様
お先にどうぞ。隣のひとに譲られた。僕は、いつでも来れるから。細くて、白くって。ブレザーがゆるくて、男装みたいで。高校生ひとりで茶店?例によって、馴染んでるわけよ。達筆な走り書きをくれて、それじゃ!驚いたな。これが京都流ナンパかと。珠ちゃんに見せたら、双子ドッキリ決定。

 

11 ふたごの脱走者
いきなり真夜中に待ち合わせ?奇人だよねえ。同部屋の子にいいわけを頼んで、優等生がまんまと脱出。一番どきどきしたのは、玄関の自動ドア。そろって方向音痴だから、迷いまくって、愉しかった。ほんとの自由行動って気がした。悪戯でもよかった。でも、いたのよ。四条大橋の向こう岸に。

 

12 ふたりは初対面
風に吹かれて川を眺めてる。珠ちゃんはまっすぐ突撃、わたしはこっそり回りこむ。歩道の反対側で、映画のワンシーン。満月、大きかったな。やあ、今晩は。ほんとに待ってた!…きみ、昼間と違うね。そう?明るくなった。根暗で悪かったな。耳元へ囁いてやったら、コケて欄干にごっつんこ。

 

13 はじめての遠距離文通
ごめんごめん、大丈夫?…双子なの?昼間は、どうも。そうして、東京〜佐賀で文通開始。はじめて封蝋の手紙が来たときは、島中の噂。中身もですます調の、幻想的な文體なわけよ。すぐ本の虫同士だと判って、二人して背伸びしまくって。たたき台は個別に執筆、作戦会議は放課後の図書室で。

 

14 こころはいつでも花の都
書道を始めて、代わり番こに清書して。卒業までにかなり上達した。あっちは内容は退廃的なのに、几帳面なまるい字でね。万年筆に憧れて、こっちも貯金で共同購入。高校生活を半分、持っていかれた気分よ。祇園祭でお逢いしましょう。あんなに心待ちにした予定って結局なかったな、人生に。

 

15 よいやみの訪れ
行き交う群衆の大河。見上げるような、駒形提灯のマスト。ひとの魂のつらなりだって、島の祭りでも言われてたけれど。千倍よ、千倍。壮観だけれど、怖かった。いきなり知らない奴は来るしさ。…なんの断りもなく、友達を?想えばあのとき、影が射したのね。何となく、わたしが組まされた。

 

16 うろんな賢人コンビ
屏風って、二つで一双なのよね。はじめて知った。黄金の蛇腹が旧家の壁をふさいで、奥深くまで連なっていて。暗い灯に浮かぶ、花鳥風月や山水。夢見心地でいたら、寒山と拾得って知ってる?仙人ぽい二人組。わたしを見すえて、嗤ったの。ぞっとして我に還ったら、あいつら、手を繋いでた。

 

17 それぞれの針路
パキッと分かれる、音がした。一気に夢から覚めた。わたしに隠れて、やりとりしてたわけ。…島を出る話が、とんとん拍子に進んでいって。あいつは王子さまの伝手で東京の出版社へ、こっちは近縁の縁談を断って、京都の旅館へ。浅はかな当てつけだった。鬼どもを尻目に満喫してやる、って。

 

18 ひめやかな憎しみ
ごめんね、御両親なのに。ううん。空っぽでいたくて、せっせと勤労。受付、お給仕、床磨き。何でも極めつくしてやる、って。雲水修行めいてたけれど、楽しかったな。休日は、行楽三昧よ。二人は遊びに?きた。しれっと、なんべんも、客として。一服盛ろうかと悶えつつ、完璧におもてなし。

 

19 つかのまの桃源郷
宿泊自由っていうから、二十二にして初上京。どこに行ったの?何はともあれ、神保町よ。嬉々として古書店巡りなんて、つくづく根暗だよね。誰も買わなそうな珍書が、平然と陳列されてて。懐の深さに感動したな。愉しかった。あの時間だけ、はじめの三人に戻ってた。収穫をぶらさげて、憧れの喫茶店へ。

 

20 つるんとした悪魔
化粧室の電球が点る。幸せそうじゃん。そしたら急に、むせび出した。どうしたの?…陰で。えっ。聞いちゃった!何を。大笑いしてた!だから、何を?あいつの産む餓鬼じゃ、脳味噌も半分かもな。くらくらした。この世が醜く歪んだ。あれ、どうかした?…ううん、別に。(見りゃわかんだろ、傀儡王子)

 

21 みなそこからの激情
くびり殺すか、こらえるか。姉さんとお店の手前、必死で抑えて、ウィンナー珈琲を凝視して。気づいてみれば血染めの手巾、一丁上がり。それから何年も梨のつぶてでさぁ。段々と。逢ってみりゃあいつはトンズラ、うちらはビョーニン。若く。姉妹そろって、人生お陀仏よ。激しくなる声音。集めだす注目。

 

22 やる瀬ないとばっちり
あの世の土産話にしたかったけどさ!しょうがないじゃん?心をお釈迦にされたんだから。…おばさん。歩く百科辞典が聞いて呆れるわ!紙クズ以下の人間のくせに!フロアに飛び散るティーセット。お客様!ああああ、八つ裂きにしてやる!決死の羽交い締め。耐え忍ぶ暴風。泣きじゃくる、いたいけな大人。

 

23 たらずじまいの言葉
…ごめんね。まだ治まらない指先。生身のひとが怖くなっちゃってさ。挙句の果てが、このざまよ。揉み潰す煙草。瑠未ちゃんは気をつけてね。(何を?)複雑すぎる教訓。まっ白な待合室。番号とアナウンス。じゃあね。遠ざかる背中。無意識からの叫び。おばさんは、悪くない!覗いた横顔、最期の微笑み。

 

24 おうちへの帰還
彼方に消えゆくおばさんの背中。じっとり汗ばむわたしの肉體。ごろんと寝返り。隣はからっぽ。さしそめる夜明けの光。おかあさん。お人形すれすれ、あるかなきかのか細い寝息。天井の木目はこの世の標本。降りてくる、風のない日の羽毛のように。溶けてゆく、雪国の春の淡雪のように。おかえりなさい。

 

25 まいごのお母さん
酷暑の午後、パーラーへ帰還。ご馳走様でした。器の底には凩の筋。美味しかった?…まあまあ、かな。ハッキリしない子ねえ。言ってるじゃん、正直に。凛としたドアベル。炎熱地獄の外界。映画、何がいい?何でも。ではいざ、恐怖に慄かん。夜までの暇潰し。謎解き。失神。わたしと出口の異なる家族。

 
 
 

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