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5帝都からくり綺譚

5 帝都からくり綺譚

Abstract

 

いまはむかしに漬かりたければ、夢も希望も棄てたまへ。

 

夕暮れの浅草をぶらついていた高校一年生のわたしは、赤目の猫の尾行に気づく。
暗い路地の突きあたりにて、月あかりを浴びるや、たちまち少年の姿に。

「千年の呪いを解いて!魔王を倒して!」

夢見心地でいざなわれたのは、奇妙なのれんのある銭湯。
水面をくぐったさきに待っていたのは、戦前の銀座の風景。

アジトで引き合わされた顔役の男いわく、なんでもわたしの青い目は、
帝都にて頻発中の怪事件を解決するべき、選ばれし者の証なのだとか。

うさんくさい。けど、還りたければやるっきゃない。
かくして不登校がちの高校生・端麗なモダンガール・人語を解するネコ(ときどき少年)
の奇妙なトリオによる、探偵まがいの捜査がはじまった…。

永遠に循環しつづける、しあわせな共同幻想。
未来をこばんだ出口しらずのユートピアで展開する、レトロ探偵風物語。

 

Fragments

 

1 いきなり勇者でいいのか知らん
だるまさんがこ〜ろんだ。紅い瞳の凝視。ころんだ!隙なし。とうとう路地裏の隅。餌、もってないよ。バンザイしてバイバイ。ぷいっと去らずに空をみる。満月の情けで人間に。千年の呪いを解いて!どうすれば?魔王を倒して!むりだよあと十七文字じゃ。雲隠れ。哀れな鳴声。運命の旅立ち。

 

2 こんな銭湯あったか知らん
鬼が交代、繁華街をゆくストップ&ゴー。雷門通りからオレンジ通り、化粧品店を左、たぬき通りを直進。すしや通りを横断、緑看板を左、青看板の路地の奥には蛇銭湯。藍|紫|赤。男|男女|女。真中を抜けると露天風呂。ゆれる水面は薄皮一枚。すり抜けて入水、石段を降りて追憶の楽園へ。

 

3 どうしてこんなに落ち着くのか知らん
下ってるはずが上ってる。水面の外は立派な御庭。ふり返れば泉水。行くよ、と魂に声。木塀の連なる土道。温もってくる青い空気。聞こえてくる喧騒。往来への出口を横切る路面電車。石畳。柳並木。ぼんぼり街灯。ルーホーヤビスビエ。着物率高し。映画で観た祖母の故郷。足元には紅い凝視。

 

4 意外とアクション多いのか知らん
瀟洒なパーラー。ぼくは外にいるね。上階には楽団。手を振る窓際のモダンガール。花椿ビスケット。よく来てくれたわね。訳も解らず注文。入口をちらり。寝たふりして。えっ。いいから!店内が不穏化。巡回する足音。脇で停止。おい貴様、起きろ。銃声、ひらけば崩折れる憲兵達。出るわよ!

 

5 正義の味方じゃないのか知らん
混乱を脱出。夜に滲むネオンの群れ。懐かしいひと混みを縫うように早足。なんなんですか!大丈夫、奴らはひとじゃない。コート、ごめんね。受けとる鞄。クリイム・ソオダもまた今度。曲り角で警戒。駆け抜けてゆく憲兵隊。探ってくるね。不意に足元から先行。OK!発車直前、飛び乗る市電。

 

6 ブラウン管のつもりか知らん
遠ざかる脅威。息をつく。振り向けば無人。揺れるつり革たち。モガとネコとに挟まれて着席。いよいよ奴ら、見境をなくしたわね。急がなきゃ。あの!解ってる、話は後よ。どこへ?みなもとの郷さ。…これで、揃ったわね。静かに外す色眼鏡。深い緑。左には深紅。かく言うわたしは、深い藍。

 

7 わたしが決めてもいいのか知らん
深海の長いトンネルを抜けると、眩しい隠れ里。牧歌的盆地の芯にそびえる、赤煉瓦の塔。魔王を撲滅しなきゃ還れないんでしょ。話が早くて結構。潰さんでもよろしい。原因を究明し、解決してくれ給え。探偵ね。敵の名は?好きにし給え。じゃあ…清充。お姉さんは雪子、ネコくんはカツミね。

 

8 探偵ごっこじゃないのか知らん
渓流のほとり。石づくりの洋装店。ツイードの背広。懐中時計。似合うわよ、探偵みたい。どうも。色眼鏡もね、バレるから。良店しかない、のどかな目抜き通り。あとは七つ道具?あなた、勘違いしてない?えっ。手段を選ばずに、混乱を沈静化すればいいの。こっそりウインクしてくるカツミ。

 

9 あの小説の庭がモデルか知らん
美事な御庭。ボオトを浮かべる泉水。小学生が遠足に来るのよ。ほとりのしだれ柳。着物婦人。寂しげな御辞儀。窓際の寝台。絹の布団から蒼白な首。かぼそい息。…心臓は無い筈なのに、突然、進行して。胸が張り裂けそうですわ。宜しいんですか、再び心を殺しても。要りません、そんなもの。

 

10 これにて一件落着か知らん
コバルトブルーの小瓶。楽になる、お薬よ。おいしい。痙攣。眼球の回転。腹部の過剰膨張。凹むや吐き出す、どす黒い濃煙。逃走を図るもカツミが阻み、激闘の末にちりぢりに。労いの茶会。頼りなげな登場。ありがとう!転倒。全身でぜえぜえ。菩薩の微笑。母さまといっしょに、歩きなさい。

 

11 犬と狐も合わないのか知らん
頼りなげなガス灯。濡れた石畳。ゆれる提灯をさえぎる、洋装の影。始まる罵倒合戦。駆けてくる唐傘。なんべん巻いても、さっきの夜道。逃れられない無間地獄。ええ、忌々しい。相手は?虎の威を借る狐野郎さ。冷静に、対決しては。冗談いうな!見るだけで虫酸が走る。とっとと消してくれ。

 

12 そろそろ親玉登場か知らん
駆けてくる三つ揃い。立ち塞がる、二人と一匹。部外者はご退場願います。…初仕事、がんばって。弾倉には虹色の弾丸。構える。ひるむ。成程、狐だ。霧雨の匂い。切り裂いた銃声。細く青白くすぼまり、昇天。説教臭いやり口ばかり。読めたわ、黒幕が。だれ?帝都のからくりを、解ってる奴。

 

13 内臓はないぞうじゃないのか知らん
はじめておぼえる空腹。そわそわしている街中。パーラー、割烹、洋食屋。名店前には貼り紙ラッシュ。閉店間近の大行列。オイルショックならぬ美食ショックね。なんじゃそれ。まずいわ、素食だらけになっちゃう。並ぶのきらい、定食屋でいいよ。いやよ!絶対、ここのオムライスが喰べたい。

 

14 黄金バットの成り損ないか知らん
路地裏からの紅い目配せ。雪子さん、並んでて。…大仕掛けになってきたね、もはや個別解決は不可能。どういうわけ?ぼくら、というか彼らは、正義面したエゴイストさ。…きみ、スパイ?監視役、かな。公平にみても相手がちょっと乱暴だね、直談判しなきゃ。お腹減ったぁ。なら、創りなよ。

 

15 いよいよ大詰め突入か知らん
えっ。喰べたいものを、念じてごらん。宙に描く妄想。黒檀の食卓。オムライス。銀の匙。現れた。どうぞ、召し上がれ。…夢に溺れていたいがための、住人同士の暗黙のルール。氷水を浴びせれば、一気に乱れだす。ふはひ、へきの狙ひは、ほへは。敵というより、お節介焼きだね。はじまるよ。

 

16 終いに裏切るパターンか知らん
カオティック!ルナティック!スラップスティック!ひっくり返った理想の王国。借金取りから逃げる茶人。夢見がちな警官。嫉妬にまみれるモボとモガ。雪子さぁん!むだだよ、二人で充分。つかまれて、ふり向くと少年、灰色の髪。知ってるの、清充の館?そりゃそうさ。不忍池の、中央の島。

 
 
 

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