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6湖畔のテーマパーク

6 湖畔のテーマパーク

Abstract

 

わたしのゲーム?わたしが、ゲーム。

 

1年生2学期の冬から、という最悪のタイミングで
東京から横浜の高校へ転校してきたわたしは、
生来の人見知りもあいまって見事に溶けこみに失敗、
日々孤立感を深めていた。

昼休み。
気まずさを隠すための、いつものタヌキ寝入り。
奇妙な夢から目覚めると、
うつ伏せていたのはアスファルトの地面。
たちこめる冷たい濃霧。
静かにたたずむ、サーカステント。
入場するなり、舞台へ招いてくるピエロ。

転校生ヲ紹介シマス。

やれやれ、夢でもさらし者?

襲いくる、敵意むきだしな人形の群れ。
売られた喧嘩は買うけれど、
いくらなんでも多勢に無勢。
刈られる寸前、というベストなタイミングで
加勢にやってきた、エージェント風の優男。
クラシックカーで向かった先は、
湖畔にひろがるテーマパーク。

懐かしのテレビゲームを想わせる
6つのアトラクションを通じて
己の怪物的無意識と闘い、超克せよ。
セリフ棒読みな案内を済ませると、男は走り去った…。

ゲームプレイを通じた自己実現。
だれも見てない、真剣きわまるひとり遊び。
いまは亡き古典建築の立ちならぶ廃墟風テーマパークにて展開する、
アトラクションゲームファンタジー。

 

Fragments

 

1 夢のとば口
脱力して暗闇を漂っている。鍾乳洞の底みたいに反響する鼓動。あちこちで蛍みたいにちらついている光。とろとろと、ぬくい。…いや。寒い。非情な地面。頬をつぶすアスファルト。なんで、こんな所で。あ〜あ、教科書。名前も書いてないのに。のろのろ回収。顔を上げて、とり落す。遊園地?

 

2 幕開けはいつも濃霧
山の上みたいな霧。暗い空の下、うっすら雪化粧のシマシマ巨大テント。サーカス、か。順応するや、身震い。寒〜!なんで夏服なんだよ。…八月、の、はず?骨身に沁みる冷気。うううとにかく避難。手早く鞄につめこみ接近。生きてるな。眠っているだけ。夜の学校みたい。罪悪感ゼロの入場。

 

3 手荒い大歓迎
気配のある無人。中央にピエロの影。歩みだすや、ファンファーレ。点灯。満席。拍手と口笛を浴びてステージへ。八方からの凝視。転校生ヲ紹介シマス。質問!なんで目が青いの?うんざりだ。突然変異、です。嘘つき、変なの、スカしてんじゃねえよの集中砲火。目には目を、手中には機関銃。

 

4 お定まりの救援者
カオスのピークで、ピエロが号令。全員、起立!礼!脱皮!一斉に化けの皮がどろり。道化は凶暴化、乱射で残骸化。しなやかに殺到する均一なデクノボー。アクロバティックで無慈悲な攻撃。同じ顔・破壊、同じ顔・破壊、同じ顔・後頭部を刈られる寸前あさってから援護射撃。こっちだ!走れ!

 

5 素敵な声のナビゲーター
クラシックカーで疾走。転校したての孤独な魂の産んだ箱庭的世界のなかで己の怪物的無意識と戦い、超克せよ。なんで棒読みなんですか。簡潔にしないと顰蹙を買うだろ?きみはラッキーだぞ。これで他の世界では禁じ手になった。他の?…見ろ、あそこだ。途切れる森林。湖畔に展開する廃墟。

 

6 我ながら不気味
濃霧にまどろむ継ぎはぎの都。越後屋、十二階、鹿鳴館…。端整なおばけ屋敷たち。吸い寄せられるとば口の闇。ステージは六つ。順番は?お気に召すまま。通行手形だ。握らされる鬼灯の鈴。きてよ。孤独な闘士が、きみの役回りさ。なぜ?胸に訊いてみな。じゃ、均衡を祈る。消失。武者震い。

 

7 忍びの者だ
まずは、男性。わたしは生き別れの父を尋ねて渡英したニンジャ。霧のロンドン。影の軍団との孤独な闘い。快い斬撃音。絢爛な火炎の術。場末のPubにてBIGな無頼漢から謎の美女を救ったら元MI6。鬼神復活をもくろむドルイドを抹殺して。父君は、やつの右腕よ。断る理由がないので、応諾した。

 

8 あきらめません、勝つまでは
なんだかんだで、ピクチャレスクな岩山の魔宮。流石に雑魚すらけっこう硬い。四天王には七回負けた。崖から転げて八回死んだ。父との闘い。洗脳は解いたが、あえなく他界。卑劣なドルイドを裏技で倒すも時すでに遅し、鬼神復活。まじめに激闘して退治。夜明けが訪れ、美女は恋人になった。

 

9 シロクマ・ドリーム
つづいて、女性。わたしは家出のホワイト子グマ。どこまであるのか知りたくて、純白の世界、ずんずんすすむ。ゆかいな凸凹。青空のうつる、すみきった海水。気まぐれな流氷を華麗にジャンプ。ときには泳いでショートカット。お腹が空いたらアザラシおじさん。揉んであげれば、お魚くれる。

 

10 エンドレス・パラダイス
流れ続けるスケーターズ・ワルツ。どこまでもへんぺいなスカイ。見たことあるような雪山。ゆかいな凸凹。青空のうつる、すみきった海水。おんなじサイズのお魚。溺れ死んでも、氷の上に。ミスはなかったことになる。2周目。3周目。4周目。5周目…。あぶない、あぶない。死ぬところだった。

 

11 混沌のユニバース
わたしは水の惑星のエリートパイロット。異星人の侵略を阻止すべく、ブレーキなしの機体で孤軍奮闘。原生林の迷宮を突破し、毒蜘蛛の怪物を退治。雷の嵐にもマケズ、翼竜の包囲網を突破。隕石の雨あられを潜りぬけ、宇宙艦隊を撃滅。フェイクスターはまだ先か。全く、まる投げしやがって。

 

12 奇態なユートピア
完成間近の人工惑星へ突入。…狂ってる。機械に支配された生物、あるいは生物に侵食された機械。清潔かつ有機的な、一個の生命体。最深部は大空洞。巨大な蜘蛛の巣の中央に陣どった、精密な瞳。追尾レーザーの雨あられ。自滅覚悟の一撃が、瞳孔を貫いた。追いすがる爆風から間一髪で脱出。

 

13 おとろしや城奇譚
わたしは囚われの我儘女王。古城の迷宮、ゴシックな塔のてっぺんの部屋で、よりどりみどりのシンプルライフ。紅茶がぬるい。この絵はくだらぬ。あの民家を除けろ。実現してゆく理想の小宇宙。わかってる。魑魅魍魎の博物館を抜けて、吟遊詩人がやってくる。凍てついた心を溶かそうとして。

 

14 目出度し、目出度し。
野蛮な亡霊どもを調伏し、種々の卑劣な罠を克服し、推参いたしました。言っとくけど竪琴、嫌いだから。えっ。ナルシストっぽくて気色が悪い。リュート、取ってきてよ。…必ずや御心を和ませて、精神の牢獄からお連れ申しましょう。やってミソラシド。七日七晩、空回り。詩人の心も凍てつきましたとさ。

 

15 ザンギリ博徒
わたしは腕きき渡世人、花札賭博はお手のもの。文明開化の世の中を、見聞がてらの根なし草。頼みの綱は一宿一飯、恩義を律儀に返して回る。伸るか反るかの真剣勝負、負ければその場でお陀仏さ。西の都へ来てみれば、東の都の恨み節。手づるを辿ると島原遊郭、いずこも変わらぬ縄張り争い。

 

16 伸るか反るかはお手のもの
もっともお徳は傍観者、漢がすたるもくそもない。どっちもどっちの報復合戦、因果の流れを眺めていたら、小僧のそそうが切っかけで、ちんぴら同士の刃傷沙汰に。命は涸らすにまかすもの、わたしが一肌脱ぎましょう。…人事は尽くした。ままよ。札を指先に吸い寄せる。ぱらり。一件、落着。

 

17 焼き付けられた時間
わたしはさすらいのフォトグラファー。各方面から依頼され、古今東西、あらゆる絵になる一瞬に、まことらしさの嘘をつく。白亜紀のジャングル。今を盛りの古代都市。はたまた荒んだスペースコロニー。密命も帯びておりまして。散り散りになった翡翠のかけら。封じ籠められた、慈愛の鳳凰。

 

18 甦るわたしたち
世界樹のほこら。老賢者から託される、最後の部分。補完される窪んだ中心。充足感。宙へほとばしる生命エネルギー。七色の光が織り成してゆく霊鳥。未聞の啼きごえ。…おめでとう。あとひと息で夜は明けます。あらゆるあなたを束ねるのですよ。飛び去る姿は昇龍と化し、暁の星の仲間入り。

 

19 気まぐれ戦士の休息
宵闇の出口に黒塗りリムジン。やったな、おめでとう。ほんとに放任主義でしたね。それも勉強さ。乗りな、豪華ディナーへ御招待だ。最高峰がウエストの高さ。活動しているミニチュア王国。さ、召し上がれ。未成年ですが。霊酒だから無問題。くいっとひと呑み、こびとの国の住人に。夢にまで見た桃源郷。

 

20 終わりわるけりゃ問題だ
わがままレストラン。貸切美術館。息つぎ不要のエメラルドの海。余は満足じゃ…。とろけきった心へ、事務的な天の声。満喫したかい?支度できたら、送迎するよ。どこへ?ファイナルステージ。え〜、もういいよ〜。ラスボスは放置じゃ、永久に還れないぞ。…そいつ、何て名前?おうきょ。虚に応ずる者。

 

21 ラスボスは現在検討中
稲光に明るむ、あやかしの城郭。記憶の産んだ魑魅魍魎の徘徊する迷宮を突破し天守閣最上層にて象徴化された虚無すなわちおのれの深淵と対決し、受け容れよ。…味方は?解ってるだろ。勝てるのかなあ。胸に訊いてみな。…さ、おれは御役御免だ。元気でな。あなたもね。だから、これで最期。消失/忘却。

 

22 検討結果は盾の裏
行燈の灯りにほのかに明るむ、壮大な山水の襖絵。ふれる指先。割れてゆく雪景色。まっくろな奥。はてしないような、ちんまりなような。踏み入れてみると、カシミヤのような夏の夜の闇。融けこんで、わたしはどこだか分からない。彼方の粒が拡大してゆく。純白の茶室。坐しているのは、白づくめの…女?

 

23 問答無用な自由意志
えーと。わたしの、深淵ですか。話が早いじゃないか。それなら単刀直入に言おう。暗夜行路を受け容れるか否か、二つに一つだ。方法は?この茶を吞め。旨い?七日七晩もだえる猛毒。…拒んだら?一生周囲に、振り回される。着座。睨み合い。深呼吸。ささげ持ち、一息に嚥下。内奥からの業火。魂の絶叫。

 

24 今後ともよしなに
またもやふわふわ漂流中。みなもとのみえない、まっしろな水中。とりどりのスクリーンにリプレイされる、明らかにされたさまざまなわたし。…死んだのかな。ある意味ではね。生まれ変わったってやつ?ひと皮剥けたってことさ。やってけるかな。外は気にするな、己に克てばいい。鳴り響く始まりの鐘。

 

25 わたしらしい新世界
チャイムをしのぐガヤガヤ。気だるい午後への抵抗。…やっぱり、夢か。上手より狸の登場。やれやれ、日本史か。着席が伝染、凪へ向かってゆく水面。ようやっと、一体感。無声の世の中ならなあ。のっけから、眠気。目新しい窓外。まっ青な空に紅白のアドバルーン。シルク・ドゥ・イリス、とうとう来浜!

 
 
 

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