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§5 レンブラント・ファン・レイン『ベローナ』1633 ―肝っ玉かあさんはラピュタよりも強し―

レンブラント

展覧会名:『フェルメールとレンブラント 17世紀オランダ黄金時代の巨匠たち』

会場:森アーツセンターギャラリー

会期:2016年1月14日〜3月31日

ベローナは、古代ローマの闘いの女神のひとり。ネーデルラント連邦共和国がスペインからの独立を目指して交渉を行なっていた時期に制作された。諸説あれど、注文主は判明していない。

ニューヨーク・メトロポリタン美術館所蔵。

 

 

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梅酒って好きだっけ?  

 

 

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好きでも嫌いでもないな。あまったるいのは苦手だから、そもそもあまり飲まないけど。  

 

 

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そっか…。なんか調子にのって一本買っちゃったんだけど、わたし基本、部屋呑みしないじゃん?なかなか減らないんだよね。   

 

 

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似合わないなー、あんたに部屋呑み。  

 

 

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いやあ、自分でもそう思うよ。ちびちびやりながらソファで読書するのが憧れだったんだけど、弱いからすぐ回ってきちゃうんだよね。
 
 

 

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ゆっくり呑めばいいじゃん。  

 

 

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ゆっくり呑んでるんだって。でも気持ちよすぎて、ウトウトしてくる。家のソファってお酒を呑むにはいちばんよくないね――あ、いちばんいいってことか。 

 

 

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だいたい、なんでボトルなんて買ったの?   

 

 

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それですよ。水戸の梅まつりってあるじゃん?毎年春にやる。会場の偕楽園(かいらくえん)のすぐそば、常磐(ときわ)神社の境内で、いっしょに全国梅酒まつりっていうのをやってて。
   
 

 

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ふーん、神社の境内で。梅酒の樽をピラミッドみたいにおそなえして、みんなで梅酒音頭でも踊るの?   

 

 

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それじゃ、ただの盆踊りでしょ。仮設テントのなかに細長いテーブルをいくつもくっつけて1本にした台が2列あって、そこに全国津々浦々、600種類くらいの梅酒の瓶がずらーっと並んでるの。あらゆる梅酒が30分間、呑み放題。   

 

 

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それはすごいな。勝手にいくらでも呑んでいいの?    

 

 

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いや、まずおちょこ大のプラカップをもらう。各梅酒の背後におじさん・おばさんが立ってるから、声をかけて注いでもらうんだよ。これください。クイッ。あっ、これもお願いします。クイッ。みたいな。

 

 

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元をとろうと思って、みんな呑みまくりそうだな。   

 

 

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わんこそば競争みたいだったよ、食べたことないけど。――で、気に入ったやつを買えるようになってるわけ。富山の「立山」が美味しかったから、つい1本。おばちゃんも熱心にすすめてくれたし。

 

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文字どおり雰囲気に呑まれてるな。いいお客さんだよ。

 

 

 

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まあ返す言葉もないけど、マジですごかったんだって、空気が。みんな何かにとり憑かれてた。ふわふわしてくるわ、舌は麻痺するわで、味の区別もつかなくなってきて。それでもひたすら飲む。嫌ならやめればいいのにもう、30分耐えきる修行みたいになってて。みんな「もーやだ」「もーむり」いいながらずーっと呑んでたよ。わたしでも20〜30種類はいったんじゃないかな。
 
 

 
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なんかおとぎ話とかでありそうだね。誘いこんでおいて、バッタリ倒れたところを喰っちゃう展開。   

 

 

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まさにまさに。でも、全国の梅酒が味わえておもしろかったんだけど、もうちょっともったいぶってほしいな。  

 

 

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ジャンケンで勝たなきゃ呑めないとか?    

 

 

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そういう意味じゃなくて。――たとえば日本全国、いっせいに梅酒まつりをやるの。共通パスポートを買えば、期間中はどこでもご当地梅酒が呑み放題、とかさ。   

 

 

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旅行会社が梅酒めぐりツアーを組んだりして。  

 

 

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そうそう。1ヶ所でぜんぶ揃っちゃうとか、便利すぎるのってつまんなくない?本体の、偕楽園の梅まつりを見たときにも思ったんだけど。はい写真とってくださいどうぞーみたいに梅の樹がずらーっと整列してると、わたしはなんかテンション下がるんだよね、逆に。    

 

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それはわかる。水草にしても魚にしても、やっぱり自然のなかにそのまま息づいている様子を観察するほうが、水族館よりずっと感動するからね。歩き回って見つける楽しみもあるし。   

 

 

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そうか、梅園もリアル志向にすればいいんだ。道端にぽつんと一本あったり、茂みを透かしてはるか向こうの丘の上に見えたりとか。そのほうが有り難みがありそう。
 

 

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でもリアルにしすぎると、要するにただの自然になるぞ。  

 

 

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だからそれは、ちょうどいいさじ加減を工夫するんだよ。緻密に人工の自然を演出してみせる、それが粋ってもんでしょ? 

 

 

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オリエンテーリング風にすれば?地図だけわたして、トレッキング気分で観たい風景を探しにいく。本気で深山に分け入りたい猛者には、フリークライミングばりの難コースを用意するとか。

 

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不治の病におかされた家族を治すには、あの崖の上にだけ咲くという花をとってくるしかない!みたいな。ほとんど冒険じゃん。 

 

 

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わんぱくちびっこエリアなんかも作ればいい。枯山水みたいに奇麗な模様をつけた砂場を、めちゃくちゃに踏みちらかして遊べるとか。よろこぶよ〜。  

 

 

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あのう、梅園の話なんですけど…。 

 

 

 

 

 

 

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まあ、庭にしろ部屋にしろ水槽にしろ、理想の城みたいな空間をこしらえて、上手くできたら見てもらいたいっていう願望はみんなあるんだろうな。 

 

 

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やっちゃんの水槽もすごいもんねえ、テレビより大きいし。インテリアの一部っていうか、部屋の心臓部になってるよね。移動させたら、天井がガラガラ崩壊しそう。   

 

 

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まあわたしの場合、仕事とも関係あるしね。水槽づくりもそのひとの内面が滲み出るからおもしろいよ。

 

 

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やっぱり水草だけじゃなくて、石や木にも凝ったりするの?
 
 

 

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もちろん。庭づくりと同じだよ。ざっくりいえば、リアル派とファンタジー派に分かれるかな。リアル派はそれこそアマゾンの川床の一部をそのまま切り取ってきたみたいな、自然そのままを再現することに萌える人々。

 

 

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ドラえもんの道具に、そういうのあったよね。水槽ってテレビみたいだし、自分の部屋でちいさな別世界が循環しているのを眺めるって楽しそう。ファンタジー派は?

 

 

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もう、とにかくSFばりのぶっ飛んだ異世界の構築に情熱をそそぐ。思いっきり遠近感を強調したりして、なんかもう、ラピュタみたいになってんの。そこに魚を泳がせる。  

 

 

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あー、なんか見たことある。ミニチュア人形を置いたりするんだよね。創造主気分になれるという意味では、たしかに作庭と通じるかも。
   
 

 

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まあ違うとすれば、アクアリウムは水生環境、水のなかの世界の表現だということ。こういうと当たり前だけど。それとあくまで、水槽の主役は熱帯魚だから。お魚ちゃんたちのための快適な住まいを作ってあげるの。

 

 

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「お魚ちゃん」っていうの、なんか好き。すると靖代水族館は、完全にリアル派だよね。  

 

 

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やっぱり自然の調和感というか、そのままで完璧なバランスが保たれているわけだから。そっちのほうが格好いいと思うし、再現しようとするなかで色々な発見があったり、勉強にもなるんだよね。

 

 

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わたしもリアル派がいいなあ。ファンタジーのひとって悪いけど、ちょっと自己満な感じがする。

 

 

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そう。知識も技術もすごいんだけど、さっきいった「魚のため」っていう視点が薄いような気がする。まあ水槽のコンテストで賞を獲りやすいのは、ファンタスティックなほうなんだけど。

 

 

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なるほど、すごさが目に見えて分かりやすいもんね。でもヤーさん的にはそんなのはくだらない、と。

 

 

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そのヤーさんていうの、人聞き悪いからやめてくれる…。くだるもくだらないも、趣味の問題だから。まあ、賞ゲットしたくてやってるわけじゃないし。あくまで私個人としては、自分で創り出すよりもむしろ自然を模倣しようとするほうが面白いし、より深い・難しいと思っている。

 

 

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なるほど。わたしは色々ヘンテコなものを書いてるから、身につまされる言葉だな。でもけっきょく、どっちも「ツクリモノ」じゃないの?「自然そのまま」からどれだけ距離をとるかに、個人の好みがあらわれるだけで。
 
 

 

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でも、私達は空想の世界じゃなくて現に自然界のなかで生きている以上、現実世界をしっかり観察して自分なりに理解しようとすることは、すべての創作的活動の大前提だと思うよ。あんたみたいにファンタスティックというか、エキセントリックなものを書こうとしてるんならなおさらね。 

 

 

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いや、おっしゃるとおりです。なんかヤブヘビになっちゃったな。

 

 

 

 

 

 

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このレンブラントの絵をみた瞬間「うわ、これって徹頭徹尾ツクリモノじゃん…。」と思った。ある意味ですごくリアリティにこだわって描かれているのに、不思議だよね。 

 

 

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(図録をぱらぱらめくりながら)フェルメールの『水差しを持つ女』。こっちのほうがあんたっぽくない?

 

 

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うん、もちろんフェルメールは大好きなんだけど。ネタ的にはこっちのほうがおもしろそうだと思って。  

 

 

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たしかに、つっこみどころ満載な感じ。ツクリモノっていうかさ、コスプレっぽくない?居酒屋のおばちゃんにデブ用のヨロイを着せてみたらぴったりだった、みたいな。 

 

 

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あははは。そしたら「ヤバいこれ、フィットしすぎでしょ!」みたいに盛り上がって、写真とろうぜ、みたいな流れになって。
 
 

 

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おいレンブラントこれ描いとけよ、って言われてなんとなくやっといたデッサンをもとに描いてみたら思いのほか傑作にしあがった――わけじゃないよね、もちろん。

 

 

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いちおう、古代ローマの闘いの女神なんですけど。

 

 

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まあある意味、強そうではあるな。

 

 

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でもギリシャ神話のアテナのイメージとかを考えてみても、あきらかに伝統的な「女神」像とはズレてるよね。わたしも肝っ玉かあさん的な印象をもったし。
   
 

 

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だって盾に描いてある顔とか、おばちゃんの亭主じゃないの?

 

 

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あはは。かあちゃんごめーん、もう店の売り上げかすめて呑んだりしねえよぉ、っていう風に見えるね。でも髪の毛、おもいっきり蛇だし。  

 

 

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ああ、メドゥーサか。   

 

 

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そう。メドゥーサの首はそもそもアテナの盾についていたものだから、やっぱり女神つながりでアイデアを考えたんだろうね。

 

 

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でもメドゥーサって、見た相手を石にしちゃうんでしょ?これ目、閉じちゃってるじゃん。 

 

 

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そう。暗くてちょっと分かりづらいんだけど、たしかにそう見える。つまりこの亭――メドゥーサは役立たずってこと。右手の剣も見てみてよ。

 

 

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暗くてほとんど見えないな。なんかしょぼい感じ。

 

 

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でしょ?発掘された古墳時代の剣みたいに、用をなしそうにない。
逆に、守るための鎧や兜は、過剰なほどに飾りたてられている。そして、柔和で包容力のある女神本体のたたずまい。
 
 

 

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なるほど、そういうねらいか。 

 

 

 

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1632〜33年ごろのオランダは、スペインから独立を勝ち取る交渉のまっ最中だった。戦いを勝利にみちびく、勇ましい女神の絵画を!という注文だったとして、それを受けたレンブラントはむしろ従来のベタなイメージとはことなる、反戦・平和主義的な彼なりの「闘いの女神」像を描いてみせた――あくまでわたしの解釈だけどね。  

 

 

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守り切ることによりむしろ勝ち取らん、って感じ?なかなか粋なことするじゃん。    

 

 

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ツクリモノ感がただよう理由のひとつは、奇抜な組み合わせでしかも明暗のコントラストを強めてあるからだと思うんだけど、それでも全体として調和して見えるのがすごいよね。フェルメールの真逆というか。どっちも拠って立つところはリアリズムなんだけど。

 

 
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こういう「不自然」なら面白いね。 

 

 

瑠未アイコン  
 
けっきょく水槽にしてもさ、自然とか不自然とかじゃなくて、ダサいからダメなだけじゃないの?

 

 

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好きも嫌いも個人の勝手、ってこと?でもそれだけじゃないよ。たとえば、オリジナリティもないと。  

 

 

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そうだね、個性は重要。既視感ありありの絵に限って「俺はどこにも属さない」みたいな顔してるからね。
 

 

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あーいるよ、研究生でもそういうの。僕にセオリーは不要です(フッ…)みたいな態度なんだけど、出してくるのを見てみると、ガチガチにセオリーにとらわれてる。勉強不足を棚に上げて、こまっちゃうんだよね。アドバイスも素直に聞いてくれないし。

 

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そういう子って、どうなるの?

 

 

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そのままモノにならなくてやめたり、ふつうに別の業種に就職したりかな。でも自分で気がついて目が覚めたみたいに必死になるケースもあって、そういう子は伸びるよ。応援したくもなるしね。

 

 

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なんか聞いてるうちに、わたしも心配になってきたな。もっと勉強せねば。 

 

 

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そういう気持ちを忘れなければ、大丈夫。それより梅酒、どうするの?私が呑んじゃおうか?

 

 

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あ、そうだね。じゃあこんど持っていくよ、なんか水槽も見たくなったし。

 

 

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あんたもやれば?好きだと思うよ、絶対。

 

 

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やってみたい。でも部屋が広くないから、ちいさい水槽がいいな。金魚鉢とか、空きビンとか。水は池から汲んでくるの?

 

 

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いやそこまでしなくてもいいよ、ちゃんと水の作りかたがあるから。今はもう、ネットでなんでも調べられるし。

 

 

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いいなー。お魚ちゃんたちがエサを食べてるところをぼーっと眺めたりして。やっぱりお姉ちゃんもエサあげるの?

 

 

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あげるよ、そりゃ。

 

 

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なんか、エサをあげてるイメージないな。ニコニコしながらあげるの?
「ほら、お食べ」とか話しかけたりして?イヤー見てみたい。

 

 

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なに勝手に盛り上がってんだよ…。べつに、ふつうだって。

 

 

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じゃあ見せてね、こんど。

 

 

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なんか、やだな。あんたがあげれば。

 

 

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逃げたな。じゃあいつか、こっそり目撃してやろう。ヤスヨのエサやり。

 

 

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知られざる動物の生態みたく言うな。じゃあ、あんたの目撃情報も話そうか?先週の水曜、御茶ノ水の三省堂にいたでしょ。私もたまたま本を見に行ったんだけどさ、あ、瑠未だ、と思って。棚の本を一冊ずつ熱心にチェックしてるから何を見てんのかなと思って、こっそり近寄ってみたら…

 

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お姉さま、ワインなどお呑みになりません?お好みの銘柄をお届けにあがりますわ。

 

 

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そうねえ、じゃあシャトー・マルゴーの2000年ものなんてお願いしようかしら。まあざっと20〜30万くらいだから、大したことないでしょ?

 

 

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あちゃー、またヤブヘビだあ…。

 

 

 

 

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