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8 真夜中のお教室

Abstract

 
 

「ひっそりとした夜更けの校舎。
ぽつねんと明かるい教室。
ひみつの授業。
魔女みたいな先生。
生徒は、わたしひとりきり。
そんなイメージです。
ちいさいころこういう先生がいて欲しかったなあ、
と想いつつ、言葉遊びをテーマに書きました」
とのこと。

作者の深層から汲みだされた、純粋なコンセプトの結晶たち。
いずれもメインストーリーの重要な通奏低音に、
なっているとかいないとか。

 

Fragments

 

1 ストーブを点けた夜
温室も温泉も、「温」→「熱」に書き換えてみたら、とても入っていられませんね。「温」のぬくぬく感は人肌のぬくもり由来なので、心地よいものごとばかりに付いているのです。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。寒ければ、昔をお訪ねなさい。死んだ物事は逃げませんから。

 

2 おなかの空いた夜
ニシンは「鯡」、魚に非ずと書く。魚じゃないの?そうです。あるひとびとには雑魚と呼ばれて、見えません。いるのに見えないの?存在しないのです、そのひとの世界には。舞台に登場するためには嫌われるしかありません。あなたも、私も。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。

 

3 淡雪のふりしきる夜
雪って、いくじなしなんですか。どうして、そう思うのかしら。だって、「ゆうき」になれてないから。その通りね。それに随分、短気よね。こんこんこんこん降ってくるでしょう。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。もうちょっとがまんできたら、勇気になれるのにな。本当ね。

 

4 実験のあった夜
まっ黒な黒板。からだ。書けるかしら。かんたん!【体】それは、猫かぶり。本性はね。【體】骨が豊か?ガリガリじゃないの?生きている骨は、栄養たっぷりなのよ。お肉は添え物。ガイコツは?それは、スカスカです。死んでいる骨だから。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。

 

5 ブラッディーな夜
トマトジュース、きらい。なぜ?ジュースなのに甘くないから。ごもっともね。先生は大好きだな。なんで?あなたとおんなじ理由。眺めていると、癒されるしね。心の闇を汲み上げてろ過すると、赤くなる。純粋だから、ジュースというのよ。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。

 

6 寂しがりやの夜
夢の入口みたい。静かだものね。時計も、止めたし。ほたるのおしり、なんで光るの。お喋りよ。挨拶したり、仲間に知らせたり。楽ちんだね。そうね。漢字は?「火垂る」こうです。ひらがなまじり?境い目の虫だから。この世と、あの世の。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。

 

7 気まずいを覚えた夜
ソーセージのうんめい?食べられちゃう!ふふ、こっちよ。【双生児】ふたごちゃん。「双」とは、否応なしに比較される、という意味です。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。心もそっくりですか。心って、何かしら。…考えるところ?だとしたら全然違うわね。先生の妹は、偽善者だから。

 

8 ステキにフテキな夜
今日の先生の服、すてきですね。ちがった、今日「も」。ありがとう。いつになく丁寧な板書。でも他人が【素敵】だなんて、不用意に口にしないこと。ほめてるのに?すごい相手と認めた途端、カタキのリストに載るからです。くれぐれも、気をつけてね。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。

 

9 墨に振り回された夜
今夜は、お習字。新しい墨汁はお墓のにおい。…先生みて!このはらい、綺麗でしょ。【食】よく書けました。でも、手抜きはいけませんね。鮮やかな紅の補筆。【喰】そっか、お口がいるのか。ちなみに、けだものが餌をとることは「くらう」と言います。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。

 

10 骨の髄まで磨かれた夜
先生お手製の、赤パプリカのポタージュ。中身に沁みわたる温もり。…ひとはどうしたら、綺麗になれるでしょう。たくさんお風呂に入る。一理あるわね。じゃあ、心を磨きたかったら?悪さをしない。惜しい、その逆。まっさらな糸に、絡めとられること。屈託を知らないわたしは素直になるほど、と思った。

 
 
 

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