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9 探検!わたしの聖地

Abstract

 
 

『ふる郷にて』のスピンオフ作品。
本編には登場しない、みなもとの郷に点在する
いろいろな聖地的スポットの探訪記です。

だれかにこっそり教わったり、
ブラ散歩中にめぐり逢ったり、
発見した経緯はさまざまだそう。

交流しているお相手は、神仏・精霊めいているけれど
そうじゃない気もするとか、しないとか。

 

Fragments

 

1 酒仙の泉
溢れるシャンパンの霊水。樹々の反映に指先を浸す。波紋の芯から登場。そなたの目的は?父が、危篤で。うそでしょ。はい。正直でよろしい。甘露に、酔いしれたくて。百年振りに、笑わせてみよ。素人落語に爆笑。参った。わあい。掬いあげ、ひと啜り。一瞬で総身が刷新。これで、同類だね。

 

2 しまなみ監獄島
鳥瞰すればひらきそめた蕾。巨岩ひしめく頂上。サークルの芯に手をそえ、黙想。妙なかお。たぶん、爺さん。シマシマ、かわいいね。囚人服ですけど。似合うよ。ほっとけ。この島から逃がして!どうやって?海を割って。何様だよ。竜宮の使いにならしてやれる。おいらんか。いいや、それで。

 

3 おばけザクラ
巨きすぎて枝垂れたドーム。諸行無常な花吹雪。堅い、皺くちゃの壁に抱きついてみる。芯には凛とした気配。何?いま忙しいんだけど。万遍なく風流に舞わせるのは大変なんだよ。若いんですね。最期のひとひらが、散るまではね。根元に誰か、埋まってますか。知らない。養分はただの養分さ。

 

4 おさな心の杜
まっぴるまなのに厚い靄。仄かなツツジの芳香。深林の芯でゆれる光源。地べたの見えない下草の絨毯。シャクシャク泡雪みたいに沈む、進むそばから消えゆく足跡。お戻りなさい。老成した妖精みたい。余計なまねは、およしなさい。寄り道は、いけませんか。いつでもわらべですよ、あなたは。

 

5 裁きの洞窟
つづら折りに下ってゆく洞窟。蛍みたいな鬼火たち。幼少期の神秘体験。采配の冴えまくる初陣。快進撃。…連綿とつづく絵巻物めいた壁画。右腕の裏切り。病を押しての出陣。大敗北。最深部、満身創痍のお館様。不覚であった。武将は、負け犬たるべし。軍神なのに?軍団の芯は、臆病なのだ。

 

6 ほむら立つ館
くまなく炎に包まれた館。宙にある注意書。沸き立つ紅の泉に身を浸す。薫風のこそばゆさ。部屋という部屋で燃え盛る火焔。みな、涼風の如し。みなもとは、奥座敷の金屏風。軽快なる炎舞。毎日やるんですか。暮れ方に起こして、明け方には鎮める。夏は涼しく、冬は暖かく。その繰り返しさ。

 

7 霞をそそぐ器の工房
澄みすぎて魚のいない湖。まっ平らなみなも。浮いている透明な工房。床には点々、しゃぼん玉いろの什器たち。豊かな水中の階調。夜明けの光に輝くすり鉢の屋根。卓に降り注ぐ黄金のビーム。熟練の削りだし。いるかの鳴声みたい。やってみるかい。ケガ、しません?ゲストだね、きみは。心配は害悪だよ。

 

8 シキドリの森
愉しいきのうは、春だった。寂しいきょうには、秋模様。紅ずくめの、静脈のような枝々。散策したり、黙想したり、柿の香りの獣たち。サッと出現、ホバリング。暖色の階調、意志的な黒眼。や、また来たね?鹿、かわいいだろ?角、切らないの。切る?なんで?荒ぶるから。荒ぶる?そうか、産まないのか。

 

9 おねはんの村
総出でふわふわ浮かれてる。誰もが綺麗な女性に視える。奇妙な楽器の妙なる合奏、戯けて、踊って、驚いて。お祭りなんですか。お・ね・は・ん・ご・っ・こ。お混ざりなさいと言われたそばからくるくる踊りの仲間入り。色んなお花がはらはらと、お空の果てから降ってきて、椿を喰べたら、ざくろの風味。

 

10 かまとと山
蒲鉾みたいに円やかだ。姫様気分になりたくて、緑の地肌により添うた、上向きらせんをぐるぐる登る。意外と、急だな。息切れはない、振り返らない。鎌倉みたいな頂きの茶亭。ぐるりと見晴らすみなもとの郷。…恥ずかしいわ。何がですか。そんなに、お寛ぎなさって。だめなの?いいえ、わたくしはただ…

 
 
 

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