『つれづれアート漫想』について
これは、きまじめなお遊びです。
あなたは美術展を、どのように楽しんでいますか。
わたしは、すべての展示物のなかから、
あえて一つだけ選りすぐってみるのが好きです。
お持ち帰りして家に飾れるとしたら、どれがいい?
傑作かどうかとは関係なしに、いちばん「気の合う」作品は?
創作のネタとして、埋蔵量が豊富そうなのは?
気まぐれな条件にみごと合致する作品があったら、
よく観察して、記憶に刻みつけておく。
そうすることによって、自分のためになる養分を
効果的に摂取できている気がするのです。
ここでとり扱っているのは、
そういう「私物化」した作品たちです。
ふつうにレビューするだけでは面白くないため、
以下のような趣向を取り入れることにしました。
① くわしい背景情報よりも、表層的なディテールに注目する
「この作品の歴史的意義は…」
「制作時期による画風の変遷は…」
「題名の由来は…」「コンセプトは…」
真剣に観ようとすればするほど、ついつい考えはじめる頭。
いったん空っぽになって、目の前の「もの」を観てみたい。
腕にしっくりなじむ喫茶店の天然木カウンターのように
心惹かれる作品と純粋にふれあってみたら、
個性的な解釈のための情報をより多く得られるのではないか。
② 脈絡のなさそうな、他の表現ジャンルと関連づけてみる
ミュシャの版画と、ビョークのコンサート。
ターナーの油絵と、激マズラーメン。
レンブラントの大作と、アクアリウムのコンテスト。
「自分のなかに、印象的な記憶として保存されている」
という点では、いずれも共通している。
組み合わせてみることによって、
作品をユニークな視点から捉えなおすためのヒントが
見つけられるのではないか。
③ モノローグではなく、ダイアローグにする
私のプロデュースする作家・浅川瑠未(あさかわ るみ)さんと、
お姉さんの山奈靖代(やまな やすよ)さんに、
自分の代わりに好き勝手に喋ってもらう。
感覚派 vs 理性派、あるいは文系 vs 理系、
という対立軸を導入することによって、
思いがけない化学反応が生まれるのではないか。
こんなことをやって意義があるのかは、判りません。
一人のもの書き/アート系翻訳者による、ささやかなる実験です。
自分らしいアートの楽しみかたを発見するための、ヒントにでもなれば幸いです。
それぞれの記事の冒頭には、
作品画像と、簡単な説明のみを付しました。
その作品について、あなたは何を感じとっているのか。
二人の対話を読む前に、ちょっと考えてみていただけると
面白いかもしれません。
登場人物紹介
東京都出身。
古着・インテリア・雑貨等の輸入販売店に勤務。
暇さえあれば、あちこちの美術館や名画座に通っている。
まち歩きが好きで、古い喫茶店がオアシス。
いい年こいて文学少女気質がまったく抜けず、
しょっちゅう空想の世界へ羽ばたいている、困った社会人。
ちかごろ明らかにオーナーから怒られる回数が減ってきたので、
危機感を抱いている。
趣味が高じてとうとう最近、作家デビューを果たしたらしい。
座右の銘は「暑さ寒さも彼岸まで」。
佐賀県の離島出身。
某大学院にて生物学研究室をうけもつ准教授。
水草やアクアリウムが好き。
美術には門外漢ながら、
鋭敏な知性とまっとうな良識の持主であり、
妹の無責任であいまいな物言いは見逃さない。
自他ともに認める酒好きであり、ワインと日本酒には目がない。
「非合理なことはきらい」と言っているが、
気まぐれにぶらりとアウトドアに出かけたり
アナログな機械式時計が好きだったり、
はたから見ると例外はけっこうある。
座右の銘は「清く正しく生涯愛煙」。
挿画担当:おとないちあき